【GSトロフィー国際予選 vol.1】“最もタフな世界一のGSチーム”を決める大会に日本人女性が参加
(初出:Lady Go Moto! 2020.9.2 転載)
「人生観が変わった」。こちらは取材中に伺った二人の共通ワードです。昨秋、スペインで開かれた通称「GSトロフィー国際予選」では、果たしてどんなドラマが待ち受けていたのでしょうか。
2019年10月24日~26日、スペイン・マラガのBMWエンデューロパークで開催された様子を、当時を思い出しながら、じっくり語っていただきました。「BMW MotorradインターナショナルGSトロフィー女性チーム国際予選2019」
今回はこの注目のイベントを、全3回に渡りお届けします。第1回は、本戦と変わらぬ過酷な3日間の全貌を。第2回に吉田美恵子選手、第3回に水谷あい選手のインタビュー記事を掲載予定です。
普段は一般の社会人として働くお二人が、エンデューロスーツを身にまとい体験した世界とは…。
International GS TROPHYとFemaleの歴史
GSトロフィーとは、2008年から2年おきに世界の各国で開催されている”最もタフな世界一のGSチーム”を決める選手権です。
GSオーナーなら誰でも参加が可能で、予選会を勝ち抜いた上位3名が日本代表のトロフィストとして世界の舞台へ出場。3名1チームで各国の猛者たちが戦うチーム戦の競技で、約1週間に渡りキャンプ泊をしながら過酷かつユニークな課題にチャレンジしていきます。
代表選手に選ばれると、本国ドイツのBMW Motorrad社から名入りのラリースーツやバイク用品が支給される他、渡航費用や宿泊費、食事などはすべて主催者に負担してもらえます。その代わり参加できるのは一生に一度限りなので、本戦の順位も大切ですがトロフィストに選ばれるだけでも最高の名誉であると、歴代トロフィストたちは話しています。
開催国は毎回変わり、世界中で開催されているのも、GSの世界観を象徴しているようです。参考までに過去の開催国は以下の通りです。
2008年 チュニジア
2010年 南アフリカ
2012年 パタゴニア
2014年 カナダ
2016年 タイ
2018年 モンゴル
日本は、第1回のチュニジア大会から全大会出場している常連国でもあります。残念ながらTOP10に入ったことはありませんが、回を重ねるごとにそのランキングをじわりとあげています。
この男性だらけの大会に女性が参加したのは、2016年タイから。男性の代表選手とは別に、各国の女性代表選手を2名決めて女性だけの予選会を開催します。その中からトップ3名が本戦に出場できるという世界の強豪女性チームを編成します。
参考までに、歴代Femaleの代表選手です。
■2016年 タイ
1.Stephanie Bouisson-FR
2.Amy Harburg-AUS
3.Morag Campebll-RSA
■2018年 モンゴル
1.Ezelda Vaarsveld-RSA
2.Julia Maguire -AUS
3.Sonia Barbot -FR
4.Jocelin Snow -USA
5.Linda Steyn -RSA
6.Bettina Nedel-USA
モンゴル大会からは2チームが結成されました。日本はこのモンゴル大会より出場し、2名の代表選手は、2大会連続出場という貴重な選手でもあります。そんな前回の経験を武器に、本戦出場をかけて予選会に挑みました
Female予選内容
DAY0 23.wed レジストレーションとウェルカムパーティー
22日にホテル入りした日本選手。前日となるこの日はホテルでゆっくりと過ごしました。15時から受付開始で、書類に必要事項を記入し医師の問診などを受けます。もちろんすべて英語です。
終わった選手から、Tシャツやジャケット、リュックなどの記念品を贈答され、競技車両F850GSを貸与。そう、GSトロフィー予選では、1人1台のバイクが支給され、そのバイクで最後まで戦います。
バイクと言っても新車ではないので、セッティングがバラバラだとか。ローシートやハイシート、タイヤ一つでも新品に近いものから古いものまであるそうで、当たりはずれがあるようです。
前回の南アフリカでは順番に車両を選べたのですが、今回は手続きが終わった順番に割り当てられてしまったことで、自分で選ぶことはできなかったそう。水谷さんはゼッケン321、吉田さんはゼッケン333に決まりました。
その後、写真を撮ってSNSにアップするなどリラックスした時間を過ごし、そのままウェルカムパーティーへ。南アフリカで共に戦った”戦友”たちとの再会や新しい出会いなど、前夜祭を楽しんだそうです。
初対面では、GSトロフィー恒例とも言えるプレゼント交換もあり、日本から持参したステッカーや小さなプレゼント(お守りとイヤホンジャック)と引き換えにステッカーをもらうなど交流を深めました。
DAY1 24.Thu 本戦を見据えた過酷なミッション
午前8時30分。開会式は、ホテルの正面ロータリーで開催され、そこで8人4グループに分かれてマーシャル先導の元、43キロ離れたエンデューロパークまで移動しました。
この日は、4つのエクササイズが展開されました。力とチームワークを必要とするタイヤの脱着、自然の造形美を生かしたタフなオフロード走行、パイロンを重ねて走行したらスイッチバックで、バイクを降りて今来たスラロームを後ろ向きに引いて戻る取りまわしと続き、ラストはロデオマシーン。
女性だからという手抜きはなく、むしろ当然のように本戦を見据えた難しい課題が準備されていました。初日からライディングスキル、フィジカル、メカニカルというGSトロフィーらしい課題が続いたと思えば、最後にロデオマシーンでユーモアを忘れないないのも、GSトロフィーの醍醐味と言えるでしょう。
全課題が終わると、今度は40km離れたキャンプ場へ移動しました。ここからはテント泊となるのも本戦と同じ。最終日のテントのたたみ方は、競技の点数に関係があるとも言われますが真相はなぞです。お湯の出ない水シャワーを済ませるとビュッフェスタイルの夕食が用意された会場で、本日の結果が発表されました。
前回の南アフリカ大会では、この時上位者だけが残り毎日数名が脱落していく方式だったのですが、今回は全工程の総合得点で争うため、最後までプレイすることができました。
DAY2 25.Fri アンダルシアのオフロードコースにて
気温22度前後で快晴という最高の気候の中、キャンプ場を出発。スペインの山道や林道要素が詰め込まれたオフロード8割という大自然を走破し、2日目のエクササイズ会場となるオフロードコースに到着しました。
まずは、純正ナビゲーションを使った「GPS(グローバル・ポジショニング・システム)チェック」。これはGSトロフィーの歴史で全大会行われている課題です。
一見簡単そうなテストなのですが、車モードを徒歩モードに変更するのに苦戦したようです。
そのあとは、ガレ(石場)や砂地など、オフロードライディングスキルが生かされるコースを走りました。後半には、5リットルの水を背負って断崖をよじ登るというタフな競技が待っていました。
タイヤを運んだり丸太を超えたり、通常のバイクレースでは考えられないような課題があるのも、GSトロフィーの特徴の一つです。ライディングスーツにライディングブーツで全力疾走できる体力が試されます。
この日も宿泊は、昨日と同じキャンプ場二戻り、明日の最終日に備えます。
Day3 26.sat これぞGSトロフィーという集大成
最終日は、再びエンデューロパークへ。
急勾配のヒルクライムに微妙な角度と傾斜のある一本橋、八の字やスラロームといった基本のコースや後輪でパイロンをはじきとばすテクニックの課題など、バランスやライディングスキルを求められる、すべての要素を踏まえた長いコースが設定されました。
最終的に、吉田さん25位、水谷さん27位でフィニッシュしました。
1.Isabella Londono Rivas-COL
2.Nikki van der Spek-NLD
3.Claire Bichard-FRA
4.Lisa Taylor-USA
5.Andrea Box-AUS
6.Klara Finkele-GBR
大興奮の結果発表を終えた夜は、ホテルに戻ってフラメンコの観劇。地元の文化に触れ人と交流するのも、GSトロフィーの醍醐味の一つです。緊張感から解放された選手たちは、朝陽を浴びるまで踊り続けました。
日本人選手は、残念ながら本選へ進むことはできませんでしたが、国際大会へ向けた予選会へは、2020年現時点のルールでは何度でもチャレンジできます。
二人が魅了されたGSトロフィー予選会とは? 人生観を変えたお話については次回につづきます。
PHOTO:Mieko Yoshida,Ai Mizutani,BMW Motorrad